はじめての新卒教育設計

アドプラットフォーム事業部でユニットマネージャーをしています、中村です。
今期(7月)から役職が変わり、現在は普段のエンジニアの業務に加えてチームや組織運営も行なっています。

さて、本記事は私の所属するアドテクノロジーDiv(以下アドテク)で実施した24新卒向けの新卒研修の取りまとめをした経験について書こうと思います。具体的に研修内容として何を行なったか?というよりは、研修自体の設計(目的、人材の配置、カリキュラムの順番、etc)をするにあたって考えたことや意識したことを中心に書いていきます。自社において部下を教育・研修する立場の人たちをマネジメントするレイヤーの方達に向けて、一つの参考事例になればと思います。

背景・目的

エンジニアは技術領域での全体研修が2週間弱あり、アドテクに新卒エンジニアが配属されるのは4月の2週目の後半からになります。今年は4/11(木)でした。例年チーム配属が6月下旬~7月上旬になるので、その間の2.5ヶ月ほどが新卒研修の期間となります。
ちなみに私自身は21年入社なので、まだギリギリ研修を受けた時の記憶がありました。
前々から興味があることは先輩社員に伝えており、例年研修を取りまとめているその先輩社員から引き継ぎを受け、今年の研修を取りまとめることになりました。
興味があることは具体的に以下のように伝えていました。

  • 2年目から毎年新卒研修の講師をしている
  • キャリアプランとして人をマネジメントする方向に進みたい
  • 単純に人に何かを教えることが好きで興味がある
  • 大学生の時は小学生向けのプログラミングスクールで3.5年ほどバイトをしていた

最近はエンジニアとして何か一つ強みを持つというのがとても難しい時代になっていると感じています。私自身も1年目はかなり焦っていましたし、興味があることや「できます!」と言うことに勇気がいるなあと感じたことがかなりありました。ただ、今振り返ってみると、一番長く続けていることが自然に強みになっていくことや、周りのチーム編成などで強みは容易に変わりうることに気づきました。なので、目の前の仕事をちゃんとこなしつつ、年単位くらいで振り返ってみて自分の貢献や価値、あとは楽しかったことを再確認しておけば問題ないんじゃないかな、と思います。

話を元に戻すと、この2.5ヶ月間の新卒教育プラン(以下プラン)を作るのが最初のミッションでした。1月下旬くらいに正式に業務としておろしてもらったので、新卒が入ってくるまでに2ヶ月ほどの期間がありました。 以下では事前準備と実際の研修期間に分けて、やったことと意識したことを書いていこうと思います。

事前準備

研修の目的の再整理

自分が取りまとめをするにあたって、まず目的を決めないといけないなと思いました。正確には、例年書かれている目的を自分の言葉で再解釈する、場合によっては再定義する必要があるということです。

アドテクの新卒研修の目的は以下のようになっていました。

* 開発環境(AWS SSO、Copilot Chat、社内申請..etc)を使いこなせる
  * アドテク(Adways)の開発環境の理解
* 開発文化、開発工程を理解・共感ができる
  * チーム開発へのマインドセットが確立する(積極性や振り返りに慣れる...etc)
  * アドテクのチームとして当たり前の感覚を養うことでチームJOIN時に文化の違いが無くせる
* 技術に対する足掛かりができる
  * 実際の現場に入り、何も調査すら出来ない・イメージ出来ないを防ぐ

この目的を自分なりに再定義したのが以下のものです。

* 開発環境(AWS SSO、Copilot Chat、社内申請..etc)を使いこなせる
  * アドテク(Adways)の開発環境の理解
  * 技術に対する足掛かりができる
    * 実際の現場に入り、何も調査すら出来ない・イメージ出来ないを防ぐ
* 開発文化、開発工程を理解・共感ができる
  * チーム開発へのマインドセットが確立する(積極性や振り返りに慣れる...etc)
  * アドテクのチームとして当たり前の感覚を養うことでチームJOIN時に文化の違いが無くせる
* アドテクで開発しているプロダクトについて、知識と理解を深める
  * 「アドテクのこのプロダクトのこの部分を担当している」と言えるようになる
    * whatの部分(whyも含むかも)
  * 背景と具体的仕様の一部に触れることで解像度を高める

差分としては以下になります。

  • 「技術に対する足掛かり」についてを、開発環境の小項目に入れる
    • 技術の軸でまとめるため
  • プロダクトについての軸を追加

再定義する時のポイントは以下の通りです。

抽象度を上げ下げしながら本質を見つける

それぞれの文に対して、抽象度を変えながら重要な部分を見つけていきます。
抽象度を上げる時は「そもそも...?」「なぜ必要なのか?」と問います。
抽象度を下げる時は「例えば...?」「つまり...?」を問います。 また、その他水平に思考を広げる方法として、「他の軸はあるかな?」と考えてみたりもします。
今回の場合だと、新卒研修をやることは新卒のためだけなのか?と考えた結果、組織にとっても教育者を育成するというメリットがあることに気づきました。

以下はそれらを図で整理したものです。

目的の再整理

これが終わった段階で、なんとなく粒度の揃った箇条書きの文章が出来上がります。

人に説明してみる

上記の説明はまだふわふわしていることが多いので、人に説明する、というプロセスを通して少しずつ固めていきます。 これを通して、以下のことを確認します。

  • 相手に伝わる説明になっているか
    • 筋が通っているか
    • 順番は適切か
    • 根拠が弱かったり、説明が足りない部分はないか
  • もれなくダブりなく(MECE)研修について考えられているかどうか

今回はMGR(エンジニアリングマネージャー)やメンバー、プロダクトマネージャー(以下PdM)などいろんな人に壁打ち相手になって説明を聞いてもらいました。
また、意外と周りでは忘れられがちなのですが、説明の練習もします。時間も計って録音をし、短くまとめてかつ通っている説明にする工夫が大事です。
ちなみに、この段階で固め切る必要もなく、以下のプロセスを通してよりブラッシュアップしていきます。

情報を集める

目的を仮で決めた後、プランを作るためには情報が必要だなと思いました。そのため、前年の新卒研修を受けた23卒に話を聞くことにしました。4人いたので、各2人ずつ1~2時間で行いました。
気をつけたポイントは以下の通りです。

振り返りを起点に行動を開始する

いきなりプランを作ろうとすると、昨年のものをそのまま使ったり、微妙に焼き直しておしまいになることが多いです。なので、まず去年の研修の良かったところ、改善できそうなところ、その他を振り返りをすることでしっかり洗い出すことが大事だと思います。
今回はそのための手段として、23卒へのヒアリングを行いました。

聞きたい観点を事前にはっきりさせておく

これがないとただ楽しく話して終わってしまいます。
今回の取組みは、新卒研修を新卒向けのプロダクトとしてみた場合のユーザーインタビューに当たります。なので、事前に聞きたい観点や方向性をしっかり固めておくことが大事です。 今回の場合は、以下のようにしました。

  • そもそも研修として必要か
  • 現場での業務に役立ったか
    • 具体的にどの部分か
  • 改善できるところ
  • その他
    • 現場での業務をするにあたって、あったら良かったなと思う研修、コンテンツなど

情報を選別する

情報を集めた後は、それらを選別する必要があります。会議の発散と収束でいう収束フェーズです。
「こうしたら良くなる」「これはいらないかも」といった願いや要望の全てを聞く必要はないので、一定の基準を持って選別していきます。今回は以下の基準を設けました。

  • 複数人から出ている
  • 現場での課題感に近い
    • 研修自体の問題点を挙げることはいくらでもできるので、現場の業務との接続を第一に考えました
    • 目的でいう足掛かりの部分とも対応します
  • 数年更新されてない・更新が少ない
    • なんらかの理由で更新がされていない場合、そこに根が深い問題があることが多いです
    • 新卒研修をサービスとしてみた時、技術的負債が溜まっている状態のようなイメージ

以上の基準を元に、今回の研修では以下の要望を取り入れるようにしました。

  • Perl研修はフレームワーク(Catalyst)の比重をあげる
    • 調査のタスクに対応できるようにする
  • SQL研修の解説を厚くする
    • index, explainを追加
  • プロダクトの研修を追加する
    • 仕様面、広告知識面
    • PdMとの交流機会を追加

選別し終わった後に、再度目的を見直し、対応していることを確認します。場合によってはアップデートします。
また、その他やったこととして、23卒にも新卒研修の講師をやってもらうかも?という情報を頭出ししておきました。このような根回しで驚きを最小にしていく工夫は取りまとめをやっていく上で一番大事なコツなんじゃないかなと思っています。

プランの叩きを作る

再定義した目的と選別した情報を元に、プランを作ります。
細かい各研修の目的ややることは担当の人に埋めて貰えばいいので、枠を作っていきます。

プランの叩きを作る時のポイントは以下の通りです。

意図を持って人・コンテンツを配置する

まず人について。
今回の上位目的で、「教育者を育成する」というものがありました。つまるところ、教育できる人を増やす必要があります。そのため、今回の研修のメイン担当には今年初めてアドテクの新卒研修を担当する新顔を多めに入れることにしました。また、輪読会など議論が大事なコンテンツにおいては場を回すことのできるコミュ力の高い人を当てるなど、技術面・性格面双方から総合的に考えて人を配置しました。

次にコンテンツについて。
特に気を使ったものはインフラ研修とプロダクト研修です。

インフラ研修については3年前の情報ですが、以下の記事をご覧ください。

多くの方が、学生時代にAWSやクラウドサービスにあまり触れたことがないまま入社します。
インフラ研修では、簡単に言うとざっくりとした構成図を見てもらいながら実際にAWS上でサービスを構築してもらいます。その際、どのようなネットワーク構成にしたかやその意図をレビューで結構詳しく質問します。また、構築途中にはコマンドが思い通りに動かないことも多々あるので、きちんとエラーやログを読んで自分なりの仮説を立て、検証していくサイクルをたくさん回してもらいます。このような研修を最初に配置することで、以下のような効果を狙います。

  • インフラの知識・経験を積んでもらい、技術的に学ばなきゃいけないことがたくさんあることを知ってもらう
  • 質問する時の基本の調査ログの型(現象・原因・仮説・試したこと)をしっかり身につけてもらう

プロダクト研修は、技術研修が一通り終わった後に配置しました。ざっくり言うとアフィリエイトの基礎知識の講義、プロダクトが目指している世界観の講義、実際にプロダクトの一部を触ってもらい仕様を図にまとめてもらうハンズオンといったコンテンツから構成されています。この研修では以下のような効果を狙います。

  • 技術的なこと以外にも学ばなきゃいけないことがたくさんあることを知ってもらう
  • プロダクトの背景や仕様を知ることで、まず登場人物をざっくり理解する

また、このような具体的なことを考えた後は必ず元の目的に戻り、対応しているか確認します。

これらのプロセスを通して、プランが出来上がります。出来上がった後はそれを各担当者に意図や目的をセットで展開し、コンテンツ準備を進めてもらいます。

実際の研修期間

実際の研修期間中、私自身がやることは少なくなります。一部の研修は担当しましたが、基本的には各担当にお任せしています。

意識したことは以下のとおりです。

イレギュラーには柔軟に対応する

まずメンタル面ですが、想定外のことは起こるものなので、「まあそんなものか。」と受け入れることが大事です。その上で、どう対応・判断するかを落ち着いて考えていきます。

今回は以下のような事象が起こりました。

  • ランチ施策は出社必須なのがちゃんと伝わってない
  • 講師が時間になっても来ない
  • コンテンツが時間内に終わらないので伸ばしたい
  • 始まる週になってもコンテンツが上がってこない

これらの事象に対しては、以下のような対応をしました。

  • 担当の人に連絡し、改めてアナウンスしてもらうようにする
  • サブ担当の人に連絡し、一時的に新卒の対応をしてもらう
  • のちのコンテンツの担当者と相談し、追加日程を決める
  • 週の最初に追加で30分ほど各担当者とMTGを設定し、進捗を含む状況(他のタスクや優先度の状態も含む)を確認する

ポイントは、気づき次第さっさと動くことです。

フィードバックをきちんと拾う体制を整える

例年の新卒研修は新卒・講師陣共に、全体として特にフィードバックを集めたりはしていませんでした。そのため、感じたことや明確な改善点もそのままにされてしまうことが多かったです。そのため、今回は以下の三つのアンケートを作りました。

  • 新卒講師用振り返り
    • 例年なかった振り返りを実施するため
  • 新卒用インフラ研修アンケート
    • 一番最初の長い研修なので、新卒からの声を即座にのちの研修に反映するため
  • 新卒用プロダクト研修アンケート
    • 今年からのコンテンツなので、しっかり声を拾い上げて振り返りをし、来年に活かすため

ユーザーインタビューもそうですが、アンケートも聞きたいことを明確にして整理し、それを適切な順番・分量でうまく言葉に落とすのが本当に難しいなと感じました。ここだけで1記事書けるレベルです。

また、各担当の人とも話せる機会があれば新卒研修の様子を聞くようにしました。全部強制的に聞く必要まではないと思ったので、一部の人からだけでもこまめに情報を集めるようにしました。

学び・得られたもの

以上の研修の取りまとめの経験を通して、得られたものは以下の通りです。

忌憚なきフィードバックとその大切さ

アンケートのフィードバックには、忌憚なき意見がたくさん返ってきました。講師向けのアンケートで言うと、自身の講義の進め方の反省点もそうですが、新卒同士の雰囲気や印象などの素朴な感想も大事な情報になります。
新卒向けのアンケートでは、インフラ研修の内容が難しかった・理解できなかったという意見が多く返ってきました。これは、新卒の方々の想定レベルやコンテンツの内容・順番を見直すとても良い機会になると思います。思ったより「つまずいた」感を多く味わわせてしまったので、のちの研修の担当者には質問の時間を多めに取ったほうがいいなどの改善点を迅速に伝えました。
例年の研修ではやったらおしまいになっていた部分が、うまくフィードバックループを回せる状態になったのは、今回の研修の一番の成果だと思います。

コミュニケーションにコストをかける大事さ

根回しの話がありましたが、他にもコンテンツを担当してくれたPdMのみなさんとはそれぞれランチに行きました。他にも目的レベルで壁打ちをしたり、半分雑談のような形でお互いの仕事について話したりしました。普段チームでの動きでは関わりが少ないからこそ多めに話す時間をとったことで、単純に交友関係が広がって楽しかったですし、研修の進行にもプラスになったと思います。
私自身は、こういうところを30分のMTGで済ませようとするのではなく、時間をかけてゆっくり話すことが好きなタイプですし、それに十分な価値があると信じています。

たくさんの人を巻き込んでプロジェクトを進めていく楽しさ

今回の新卒研修では、人もコンテンツも例年に比べ大幅な追加・更新を行いました。それぞれ通常業務を行いながらの準備・進行だったので、ある程度リソースを刻む形になります。つまり、通常業務を行いながら、合間で準備を進めてもらうことになります。
その中でも自分の伝えた目的・方向性に沿った形のコンテンツを準備し、それを遂行してくださった各担当者の方には本当に感謝しています。
また、自身の経験としてもすごく楽しかったですし、一つの自信になりました。

まとめ

今回は、アドテクの新卒研修の取りまとめを通して、研修自体の設計について考えたことや意識したこと、それらを通した学びを記事にしました。この記事を通して、人をまとめる楽しさや気をつけるポイント・教育やプロジェクトを進める楽しさが少しでも伝われば幸いです。