ワークフロー自動化ツールn8nを使い始めて見えてきたこと

こんにちは!ADWAYS DEEEでシニアテクニカルマネージャーをしている呉です。

大変ご無沙汰していました!なんと、ちゃんとしたブログ更新は約3年ぶり…。

さて、最近改善チームから打診があり、ワークフロー自動化ツール「n8n」を使い始めました。

今回はその使い始めた経緯や活用方法、実際に使ってみて分かった良い点・課題点などをご紹介したいと思います。

n8nを使い始めたきっかけ

別チームから「n8nを使ってみたい」という打診がありました。
n8nはオープンソースのワークフロー自動化ツールということで、まずは試しに使ってみることにしました。

今までRPAツール、Zapier、Embulk、TROCCOなど、様々な自動化・データ連携ツールを使ってきました。
RPAはブラウザ操作の自動化、Zapierは各種SaaS間の連携、Embulk/TROCCOはデータパイプライン構築といった具合に、
それぞれのツールには特定の用途や得意分野がありました。

そんな中でn8nを触ってみて感じたのは、その柔軟性と汎用性の高さです。
n8nの中で色々なアプリケーションやサービスを組み合わせて、ノーコードでワークフローを構築していく。
既存ツールの延長としても使えますし、より柔軟な組み合わせも可能になる点が新鮮でした。

n8nとは

n8nは以下のような特徴を持つワークフロー自動化ツールです。

  • オープンソースのワークフロー自動化ツール
  • ノーコードでワークフローを作成できる
  • 400以上のサービス・アプリとの連携が可能
  • セルフホスティングも可能

詳細は公式サイトをご覧ください。

n8nの用途案

n8nを使うことで、様々な用途に応用できると考えています。

監視・モニタリング系

Gmail、Slack、AIなどを組み合わせることで、カスタムの監視アプリケーションを作成できます。

活用案:レガシーシステムのエラーログ監視の自動化

現在、一部のレガシーシステムではエラーログがメールで送信される仕組みになっています。

本来であれば監視ツールへの移行が望ましいのですが、様々な事情から実現できていない状況です。

現状は人間がメールを目視で監視し、クリティカルなエラーをチェックしていますが、
以下のような課題があります:

  • チェックの抜け漏れが発生する
  • 人的リソースが割かれる
  • 夜間・休日の対応が困難

そこでn8nを使って以下のようなワークフローを構築できないか検討しています:

  1. Gmailノードで定期的にエラーログメールを取得
  2. AIノード(Claude/ChatGPT等)でログ内容を分析
  3. システムクリティカルなエラーのみをSlackに通知

このワークフローが実現できれば、人間による目視チェックの負担を減らしつつ、
重要なエラーの見逃しを防ぐことができると考えています。

自然言語でのDBクエリ

AIを活用して、自然言語からデータベースクエリを生成するワークフローも構築してみました。

実際に作ってみた感想

最初は遊び心から始めたのですが、実際に作ってみると新鮮な体験でした。 自然言語でデータベースと会話できるというのは想像以上に便利です。

精度について

単一テーブルでの簡単な問い合わせの場合は、比較的精度高く回答できました。

一方で、以下のようなケースではうまく回答できないこともありました:

  • 複数テーブルを跨ぐクエリ
  • 複雑な結合条件を含む問い合わせ
  • ビジネスロジックが複雑なクエリ

精度向上のための工夫

クエリ生成の精度を上げるため、以下のような試行錯誤をしました:

  • DB定義(テーブル構造、カラム名)をAIに提供
  • 各カラムの意味や用途の補足情報を追加
  • サンプルクエリをプロンプトに含める

最終的に作成したワークフローは以下のような構成になりました。

このワークフローは大きく2つの流れで構成されています:

1. 初期化フロー(上部)

  • ワークフロー実行時にカラム説明(日本語の補足情報)を取得
  • Vector Storeにスキーマ情報を保存(RAG用)

2. チャット応答フロー(下部)

  • Slackからのメッセージを受信
  • AI Agentがチャット履歴、テーブル定義、テーブル情報を参照
  • 自然言語をSQLクエリに変換して実行
  • 結果をSlackに返信

AI Agentには以下のツールを提供しています:

  • DB Schema and Tables List取得
  • Table Definition取得
  • クエリ実行
  • RAG情報取得(Vector Storeから関連情報を検索)

これにより、AIが必要に応じてDB構造を確認しながら、適切なクエリを生成できる仕組みになっています。

プランの紹介と選定理由

n8nには複数の課金プランがあります。

  • 無料プラン(Self-hosted)- 個人利用向け
  • Starter(Cloud)- 小規模チーム向け
  • Pro(Cloud)- チーム・組織向け
  • Business(Self-hosted)- セルフホスト有料版
  • Enterprise(Cloud / Self-hosted)- 大規模組織向け

現在、Cloud版のn8n ProとSelf-hosted版(無料版)の両方を試験的に運用しています。

Cloud n8n Proのメリット・デメリット

メリット

  • アカウント運用ができる(プロジェクトやワークフロー、細かい設計の共有が可能)
  • インフラ管理が不要
  • 常に最新バージョンが利用できる

デメリット

  • ライセンス費用が高い
  • セキュリティのコントロールがしづらい
  • 機密情報を扱う場合に制約がある(注意が必要)

Self-hosted(無料版)のメリット・デメリット

メリット

  • 無料で使える
  • セキュリティのコントロールがしやすい
  • データを自社環境内で管理できる

デメリット

  • アカウント運用ができない(小規模チームであれば共通アカウントでカバー可能)
  • 運用コストがかかる(バージョンアップ対応、サーバ費用等)
  • インフラ管理の手間が発生する

現在は両者を比較検証しながら、用途に応じた最適なプラン選定を進めています。

将来的には、Self-hosted版でもアカウント運用が必要になった場合、Businessプランの導入も検討しています。

使ってみた感想

実際にn8nを導入・運用してみて感じたことをまとめます。

n8nの良かった点

  • ノーコードで柔軟なワークフローが作れる
  • セルフホスティングで自由度が高い
  • コミュニティが活発

学習コストについて

n8nには400以上のノード(連携サービス)があり、最初はどのノードを使えば良いか戸惑うことがあります。
また、公式ドキュメントはエンジニア向けの内容が中心で、非エンジニアにとっては学習コストが高い印象です。

学習コストを下げるAI支援ツール

この学習コストの課題に対して、AIを活用したツールがいくつか登場しています。

1. MCP(Model Context Protocol)対応

n8nにはMCPサポートがあり、ClaudeやCursorと組み合わせることで自然言語でワークフローを作成できます。

MCPを使うことで、例えば以下のようなことが可能になります:

  • 自然言語でワークフローの作成・編集を指示
  • AIがn8nのAPIを通じてワークフローを自動生成
  • 複雑なノード設定もAIが補助

実装にはn8n-mcpを利用できます。

2. Vibe n8n

Vibe n8nは、Chrome拡張機能として提供されているAI支援ツールです。

主な特徴:

  • 自然言語からワークフローを自動生成
  • n8n.io、n8n.cloud、セルフホスト版すべてに対応
  • ワンクリックでn8nにインポート可能
  • 無料で利用可能

ブラウザから手軽に使えるため、導入の敷居が低い点が魅力です。

3. AI Workflow Builder(n8n公式)

n8n公式が提供するAI Workflow Builder(ベータ版)も利用可能です。

主な特徴:

  • n8n公式が提供する機能(Version 1.115.0以上必要)
  • 自然言語からワークフローを生成
  • n8nプラットフォームに統合されている
  • ベータ版として提供中(2025年10月時点)

これらのAI支援ツールにより、エンジニアに限らずワークフロー作成がしやすくなり、 ノーコードツールの敷居がさらに下がることが期待できます。

セルフホスティング時の注意点

セルフホスティングで運用する場合、以下の点に注意が必要です。

暗号化キーの設定

環境変数で暗号化キー(N8N_ENCRYPTION_KEY)を明示的に設定しないと、起動のたびに新しいキーが生成されてしまいます。
その結果、過去に作成した認証情報などの暗号化データが復号できなくなり、実質的にデータが消失してしまいます。

必ず.envファイルや環境変数で固定の暗号化キーを設定しておくことをおすすめします。

アップデートの頻度

n8nは開発が活発で、アップデートが頻繁にリリースされます。
新機能やバグフィックスが追加される一方で、セルフホスティング環境では自分でアップデート対応をする必要があります。

AIを組み込む際の注意点

n8nはAIと組み合わせることで非常に強力になりますが、
すべてを自動化すべきではないと考えています。

AIには判断ミスや予期しない動作のリスクがあるため、
どこまでを自動化し、どこで人間が判断するかのラインを明確にすることが重要です。

例えば、以下のような操作については特に慎重な判断が必要です:

  • データベースへの書き込み権限
  • 本番環境への自動デプロイ
  • 外部サービスへのデータ送信

便利さとリスクのバランスを考えながら、段階的に自動化範囲を広げていくことをおすすめします。

おわりに

n8nを使い始めてみて、ワークフロー自動化の可能性が大きく広がりました。

レガシーシステムの監視自動化や、自然言語でのDBクエリなど、
従来のツールでは実現が難しかった用途にも対応できる柔軟性が魅力です。

特にMCP対応により、AIと組み合わせることで学習コストを下げられる点は、
今後のノーコードツールの方向性として非常に期待できます。

一方で、セルフホスティング時の設定やセキュリティ、
特にAIを組み込む場合の自動化範囲については、慎重な判断が必要です。

現在、Cloud版とSelf-hosted版の両方を試験運用していますが、
今後も実際に使いながら、チーム・個人での最適な活用方法を模索していきたいと思います。

また、新たな活用事例や知見が得られた際には、改めて記事として共有していく予定です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。