こんにちは、アドプラットフォーム事業でシニアプロダクトデザイナーをやっています、中野です。
今年の4月からインフルエンサー領域の新規事業プロジェクトに携わっています。
6〜8月には株式会社ルート(以下root)様にデザイン支援をお願いし、プロダクト開発におけるリサーチから事業設計、最終的に社内事業本部へのプレゼンまで実施しました。
今回は、3ヶ月間のrootとの伴走で得た学びについてお話しします。
外部のデザイン支援を受けた目的
私たちが外部のデザイン支援を受けた目的は、主に以下の2点です。
- ユーザー価値と事業価値のバランスを取る
- スピード感あるリサーチの実施
ユーザー価値と事業価値のバランスを取る
今まで取り組んできた社内新規事業の進め方ではどうしてもビジネスとして成り立たせるための動きが強く、ユーザー価値についてしっかり向き合うことが少なかったため、本来両立させたいものがどちらかを犠牲にしているようなスタンスや結果になっていました。
そのため、ユーザー価値について共通のマインドを持ち、状況に応じた行動の取捨選択、役割分担ができるチームの状態と、ステークホルダーとの共創文化を形成することを目指していました。
スピード感あるリサーチの実施
各プロダクトチームに共通した問題として、事業スピードにリサーチなどのデザインワークが間に合っていないという問題がありました。
純粋な作業スピードというより、何をいつやるかの判断や意思決定の迷いが生じており、適切なコストのかけ方を判断できていない状況でした。
そのため、リサーチの必要性と適切なタイミングについて論理的に理解し、判断する力を培う必要がありました。
これらを社内のみで実現するには限界があり、外部の知見や思考法を取り入れるため、私たちのプロジェクトはrootのデザイン支援を導入することにしました。
プロジェクトメンバーと大まかなタイムライン
rootからの学びについて説明する前に、私たちプロジェクトのメンバーについて軽く紹介します。
私たちプロジェクトチーム5名、社内ステークホルダー3名、root3名の全11名体制でした。
rootのデザイン支援は「継続型支援」となっており、事業計画に応じたデザイン戦略の立案と推進を行っていただきました。今回は主に上流工程のリサーチ支援と、新規事業開発における様々なデザイン活動の支援をいただきました。
また、6〜8月のタイムラインは上図のようになっていました。最初からこの流れでいくと決めたわけではなく、この期間でどれぐらいサイクルを回せるかという指標で動いていました。
結果的に3回のリサーチサイクルを経て、最終的な事業アイディアはたった2週間で形にしました。(今考えてもだいぶ詰め込んだな〜と思います)
ではここから、rootとの伴走期間で受けた衝撃とその学びについて説明していきます。
最初の衝撃(6月)
最初に感じたのは圧倒的なスピード感でした。
rootデザイナーと協業するとリサーチの進み具合がぐっと速まり、PdMの意思決定も速くなったと感じました。
リサーチ期間中、私は一日だけお休みするタイミングがありましたが、一日経つとプロジェクトの状況は一変していました。自分が想像するよりずっと先に進んでおり、まるで別チームに合流したんじゃないかと思うくらいの違いでした
意識して自分からプロジェクトの状況を拾いにいかないとすぐに追いていかれるような危機感を持ったのを今も覚えています。
rootデザイナーとの作業スピードの違いに不甲斐なさを感じ、「こんなにすごい人たちに来てもらったんだから吸収できるもん全部吸収しないと…!!」と奮起しました。
次に衝撃を受けたのは、デザイナーのオーナーシップの強さでした。
今まではインタビューの日程や対象、質問内容など、多くの部分をPdMに相談し、意見を取り入れ、合意を受けて実施、という方法で進めていました。
「ユーザーの体験設計に責任を持つ」というのが私たちの組織の中で定義されているプロダクトデザイナーの役割ですが、なんだかんだPdMの承認をとりながらリサーチを進める…という習慣が根付いてしまっていました。
インタビューでどう質問するか?など、わざわざPdMに確認してもらわなくてよい部分まで相談しながら進めていて、その結果意思決定が遅くなっていたことに気づきました。
rootデザイナーは、PdMと必要なコミュニケーションは取りつつ、ユーザーの体験設計やリサーチに関する主導権はこちらにある、といったスタンスで常に取り組んでいるように感じました。
そのため、PdMは「事業仮説は何か?」「リサーチで何が知りたいか?」「何を知ることができれば次に進めるか?」といったPdMが考えるべき事柄に集中でき、より思考を深めることができていました。
また、チーム内での細かな連携所作にも違いを感じました。
チームメンバーとはリモートでのやり取りが基本だったため、Discordで通話、Figjamで議論し、Slackで細かな連絡を取る、という方法でコミュニケーションを取っていました。
rootデザイナーが入ってからも同様にやり取りをしていましたが、ある日の朝、Slackで以下のような連絡が届いていました。
ちょーわかりやすい…!!(スタンプの付き具合からもわかる圧倒的好評)
プロジェクトの進捗が端的に記されているものがあるだけで、その日の作業開始がスムーズになりました。
みなさんは、こんな状態になったことありませんか?
色々なことが進んだ日に「やりきった…!」という気持ちでへとへとで退勤し、次の日になったら「あれ?昨日何を決めたっけ…?」 私は何回もあります。
チームメンバーへの共有目的だけではなく、こういった状態を回避するためにも、
- 進捗を整理する(何をやったか・何がわかってきたか・何を決めたか)
- 次にやることを整理する・決める
- 頭の中だけにあるイメージをこまめに可視化する
をSlack(自分たちが一番目にする場所)に書き込むことを学びました。
6月の時点でどんだけ学びがあるんだよ!とツッコミたくなるんですが、その中でも一番衝撃を受けたものがありました。
それは、停滞したチームを前進させる力でした。
6月中旬に実施したリサーチ結果を元に次に進もうとしていたチームは、迷っていました。
確かにリサーチで得られた情報はあるし、
立てた仮説が間違っていたのはわかったが、
じゃあどうやって仮説を立て直せばいいんだろう…?
チーム会議でも議論が平行線を辿り、次の糸口が掴めずにいたとき、rootデザイナーが一晩でスライド資料を作ってくれました。(まさかのスライド資料!?と最初びっくりしました)
(スライド資料の一部です)
資料には、リサーチ結果と仮説の作りが間違っていたのでは?という考察、次のアクションを提案する内容が書かれていました。
この資料によって、チームは自分たちが置かれている状況を客観的に見つめ直すことができました。
今までのこと・これからのことをごちゃごちゃに思考していた頭がスッキリした感覚がありました。
考えなきゃいけないことをひとつひとつ整理し、分類し、アウトプットする。
その方法は様々で、今回スライド資料という形にまとめていただいたことで、今までのこと→これからのことを一連の流れで咀嚼することができました。
可視化・言語化でプロジェクトを前に進めようとする動きを見て、これがデザイナーか…!と思わず膝を打つような衝撃でした。
結果的にチームは無事混乱を脱し、次の仮説検証に進むことができました。
少しずつ活かす(7月)
7月に入ると、リサーチが徐々に回り出していきました。
今まで何度もやってきたはずなのに、新規事業のインタビューはなんかうまくいかないなぁ…という感覚が毎回ありました。
インサイトを掘るテクニックの引き出しの無さに苦戦していたのだと思います。
ただ、良いこともありました。
6月のリサーチ後にチームで振り返りを行ったことで、7月のリサーチを改善することができました。
この成功体験により、リサーチ後に振り返りを行うことをプロセスに組み込みワンセット化しました。
「振り返りを次に活かしたいけど、その次のタイミングがいつ来るかわからない問題」というのは結構あるあるだと思います。(風化してしまう改善タスクは数知れず…)
ですが、こういった新規事業プロジェクトではリサーチサイクルが早く、すぐに活かせるタイミングが来るため、振り返りの有用性が高いということがわかったのは収穫でした。
7月中旬は、新規事業の難しさを痛感することが多かったです。
2回のリサーチを経て、私たちの仮説の立て方や検証方法の甘さが目立っていました。
チーム全員でアイディアを考えても納得のいく意思決定ができず、繰り返されるアイディエーションと仮説設計…
- ビジネスとして成り立つのか
- リサーチで得られたインサイトが活かせているのか
上記が論点となり「これだ!」と思ったアイディアも、ちょっと深掘ると「本当にこれで進めていいのか?」と疑心暗鬼に陥っていました。
これまで積み上げてきたデータの活かし方がわからない状況が苦しく、ソリューションを決めるのってまじむずい…と愚痴をこぼすのも多くなっていました。(でもチームで苦しい感情を共有できるのはすごくいいことだなと思います)
そんなとき、rootデザイナーから以下の助言をもらいました。
まずは、リサーチで得られたインサイトについて、チームで共通認識を持てているかをもう一度確認することから始めました。
この場合の共通認識は、誰にでもわかる言葉や表現に落とし込み、理解することではなく、アイディエーションで生まれたアイディアを見たときに「あ、このインサイトから着想を得たアイディアだな」と誰もが同じように想像できることだと教えていただきました。
インサイトを型にはめて解釈しようとすると、そこからは型にはまったアイディアしか生まれてきません。
インサイトに含まれるコンテキストや感情を立体的に把握することで、価値のある斬新なアイディアが生まれるのです。
やったことはシンプルで、インタビュー内容を簡単なレポートにまとめ、チームで読み合わせをしました。「どこに着目したのか」や「こんな考察ができるよね」などを話し、各々が今一度インサイトと向き合う時間を作り、ベースを揃えることに集中しました。
次に、アイディエーション方法を見直しました。
アイディアテンプレートを作り、それを元に各々のアイディアをまとめチームに共有することにしました。
- ソリューションとして成り立つのか
- リサーチで得られたインサイトが活かせているのか
上記を評価できるようなアイディアになるように、必要な情報を整理しテンプレートに落とし込みました。
なかなか前に進まなかった時期でしたが、改善を挟みようやく検証しうるソリューションが決まりました。
このとき、7月下旬。
社内ステークホルダーとは、8月末の時点で最終事業プレゼンができる状態まで持っていくことを合意していました。
怒涛の終盤(8月)
8月に入ってからはジェットコースターのようにプロジェクトが進んでいきました。
8月頭の時点でアイディアはまだ固まっておらず、リサーチは回せていたものの何に価値があるのか未だ曖昧なままでした。(ここが決まらないとサービスのコアが見えてこない)
このままでは確実に間に合わない…!!
そこで、rootデザイナーと相談しながらチームの進め方を2ラインの並行稼働に変更しました。
- [ライン1]ビジネス検証
- ビジネスモデル周りを現実的なところまで落とし込む・最大化させる
- 競合調査や有識者の声を集めながら金脈のある顧客を探す、お金の流れや取り方のパターンを出す
- [ライン2]ユーザー検証
- サービスを使うユーザーの価値検証をする
今までのチームはユーザー検証をメインに進めていましたが、私たちが考えていたサービスは既存の広告事業を活かすBtoBtoCの座組みだったため、広告主への価値について検証するビジネスラインが立ちました。
PdMとPMMがオーナーシップを持ち、広告主ヒアリング・サービス提案からビジネスモデル・マネタイズ検討、事業拡大構想などをごりごり進めてくれました。
デザイナーはユーザーラインを担当し、プロトタイピングなどを取り入れサービスをより具体化しながらリサーチをかけ、ビジネスラインに結果を共有していました。
この役割分担以降、ソリューションの形が急速にまとまっていく感覚がありました。
後半は、サービス設計の大詰めと最終事業プレゼン準備を急ピッチで進めました。
デザイナーは主にサービスコンセプトのビジュアライズを担当しました。
- プレスリリースイメージ
- 管理画面イメージ
- ロゴ、トンマナ設計
- サービスサイトなど
ここまでくると覚悟が決まっており、最終プレゼンまでに足りないものがあればそれを取りに行く、というマインドで、自然と自分から行動することができていました。
(なんと最終プレゼン前日にサービスサイト検証のために社内ユーザーテストしていた。自分でもびっくり)
3ヶ月間を振り返ってみて
8月末の最終日、無事プレゼンは終了しました。
長いような短いような、本当に濃い日々をチームで駆け抜けました。
達成感もひとしおですが、ここで燃え尽きてしまわないようにこの怒涛の3ヶ月を振り返る時間を作りました。
ざっくりとしたタイムラインを元に、思い出に浸りつつも学びや改善ポイントを発散しました。
付箋を書き出している中で、チームの成長を実感することができ、感慨深いものがありました。
以下、印象に残ったものをピックアップしました。
- アンケートの作成から、インタビュースクリプトの作成、インタビュー実施後のまとめ方をrootさんと一緒にブラッシュアップし、よりリサーチの目的を意識した方法にアップデートできた。
- 本来はデザイナーがもっと早く可視化をして見せてフィードバックをもらって、を繰り返せるとよい。初版が20点でも問題ない。(スピードを出す)
- 毎日意思決定した内容と理由をチームのドキュメントにまとめるようになり、積み上げで考え進行できるようになった。
- 広告主へのリサーチもっと早くやっていれば…広告主だけじゃなく、社内社外すべての有識者を全力で巻き込んでいく・必死になって顧客を探すというマインドを目指したい。
- 無事にプレゼンまで持っていき、ステークホルダーから事業内容へのフィードバックを得られたことがチームにとって達成感があった。
おわりに
rootデザイナーに伴走してもらうことで、新規事業におけるチームの動き方を肌で学ぶことができました。
直接的な指導というより一緒に働くからこそわかる、マインドや行動が自然に伝播するような支援をしていただけました。
それはデザイナーに限ったものではなく、プロジェクトに携わる者としての動きを示してくれたため、チーム全員が大きな学びを得ることができました。
また、外部のデザイン支援を受けた目的である「ユーザー価値と事業価値のバランスを取る」「スピード感あるリサーチの実施」については、2ラインの並行稼働やデザイナー主導のリサーチなどを通して、実践的な経験が積めたと思います。
8月末をもってrootの支援は終了し、今は得られた学びを実践しつつ体系化していくフェーズに入っています。
rootのみなさん、3ヶ月間ありがとうございました!
今回、色々な失敗・成功・苦しみ・喜びを経てサービス立ち上げの経験ができました。
こうしてブログを書いている今も絶賛同プロジェクトの仮説検証に苦しんでいますが、この3ヶ月の経験を糧に、チームで前に進んでいこうと思います。