在宅勤務が明けたらどうなる?

開発組織でエンジニアリングマネージャーをしている金谷です。

3月25日現在、新型コロナウイルスの影響拡大が続いています。当社も1ヶ月ほど前より在宅勤務が本格的となり、現在では殆どの従業員がオフィスを離れ自宅で仕事をしています。

今回は、急遽、フル在宅勤務に切り替える事になった者の一人として、自身のロールである開発組織のマネージャー視点も少し含めつつ、ここ数週間の個人的な気付きと学びを3つ挙げたいと思います。少しでも、同じ境遇や近しい立場の方への知見の共有となれば幸いです。

今は混乱拡大中ですが、やがてウイルスの感染拡大に歯止めを打つ日がくるでしょう。

在宅勤務が明けたらどうなる?
知らんのか。
組織が強くなり在宅勤務も普通になる。

私は今回の危機に端を発する多くの会社の一斉在宅勤務は、会社はもとより社会に変革をもたらす不可逆の流れになる可能性があり、危機が去ったら元通りに戻るのか、より良い働き方を自分たちで決めていくのかは、今の1日1日の体験によって定まってくると思っています。

オフィスに出社することは、以前より一層意味のある行為として、在宅で勤務することも、皆がその価値に気付き課題を1つずつ改善していく。効果と効率を考えて仕事をする場所を選択する組織になるために私は考え行動したいと考えてます。

要点

  1. 在宅に対する不安や問題の多くは組織の弱点だった
  2. 在宅でもツールと環境整備によって十分意思疎通できる
  3. 離れ離れでも、チームで知識を獲得するためにやり続けること

1.在宅に対する不安や問題の多くは組織の弱点だった

例えば、在宅では仕事の成果が測れなくなるのではないか?という不安や、在宅によって関係者との会話が減り、出来上がったものへの差し戻しが増えてしまった等の問題があったとき、重要であることは「在宅」はあくまで問題を顕在化させる1要素でしかないという事です。

例に挙げた不安や問題は、仕事の成果や完成の定義が曖昧であったことが直接的な原因にあたります。私は「在宅」は問題発生装置ではなく、増幅装置であると捉えるようにしています。
なお、問題が増幅して顕在化することは課題解決を早めることにも繋がるので、是非、ポジティブに捉えましょう。

どうすれば良いか?
在宅であっても、まずは観察が重要です。見えないときほど、見えるように、浮かび上がる不安の出所や具体的な問題の発生箇所を観察できるように目を向けましょう。離れている事を理由に想像を働かせるのは悪手です。関係する人との対話も欠かせません。私はOODAループにならい、観察、情勢判断、意思決定、行動を機敏に実行できると理想的だと考えています。

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※OODAループは単に4つの循環サイクルと誤解されがちですが、元々は航空戦の瞬時の状況判断を要するところから生まれており、時には組織の意思決定をすっ飛ばし、情勢判断から現場で即行動を行うこともあると定義されています。今のような突発的な環境変化は、それくらいの俊敏性を求められていると思います。

2.在宅でもツールと環境整備によって十分意思疎通できる

在宅業務を始めたら、会議や面談の際の意思疎通が難しくなったという体験が、特に初めのうちはよくあります。

これは、幾つかのツール導入と地道な環境整備で劇的に改善することが可能です。その上で、会議などの特定のシーンだけでなく、情報全体の流通にも目を向け、組織内の情報差を極力生まないコミュニケーション設計や、チャット利用時のルール整備(なるべくDMやプライベートチャンネルを避ける等)を行うと、在宅であっても意思疎通に困ることが少なくなる筈です。
※このテーマは多岐に渉るため、今日は一歩目としてのツールと環境整備に限定いたします。

そもそも、人の居る場所に限らず、情報は最終的にすべて自分の目や耳などの五感を通じて脳に入ってきます。出ていく時も同様です。こと人との対話においては表情や声のトーンなどの非言語情報が、時には言葉以上に力を持つ情報にもなり得ます。

そのため、直接会えない在宅環境下では、極力高い解像度で情報を交換する必要があり、軽快に使えるビデオチャットツール(ZoomやGoogle Meet)や固定の高速インターネット回線、音声をクリアに伝えるヘッドセット(イヤフォン)は必須と言えます。
また、考えていることの全てを言葉で交換するのも大変です。在宅であってもホワイトボードや付箋を使ったアイデア整理をしたい時があります。ビデオチャット+オンラインホワイトボードサービスの「Miro」等を活用すると、自宅にいながら皆で活発にアイデア出しを行うことも可能になります。

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1つ細かい気付きとして、「オフィスの会議室に複数人+自宅から遠隔参加」の混在環境で会議をすると、複数人が直接集まる会議室の場の力と、複数人共有型マイクの性能限界により、自宅側に届く情報は大きく制限されるという事を体験しました。

この場合、どうしても自宅からの参加者は受動的な姿勢になってしまいます。普段、会議室で遠慮のない議論を交わす相手が、しゅんと静かになってしまうのです。私も同じように黙ることが増えました。僅かな遅延や言語化されない場の熱、空気が反応の機会を逃し、結果として待ちの姿勢になっていくのだと思います。

これを踏まえ、会議の場で1名でもリモート参加者がいる場合は、オフィス側も全員自席からヘッドセットを装着して開催したところ、参加者全体の情報差が解消されコミュニケーションが良好になりました。オフィス+在宅での会議にもやっとしている方は一度お試しください。

このような地道な環境改善をまずは行い、その上でコミュニケーション設計やルールの見直しに進めていきましょう。

3.離れ離れでも、チームで知識を獲得するためにやり続けること

自分たちの仕事が価値の再生産よりも創造することが主である場合、個人の知識をいかに組織に共有し、互いの知見を繋げて新たな知識を獲得していくかという事がとても重要になってきます。

SECIモデル(セキモデル)という、組織の知識獲得を定義したナレッジマネジメントの理論によれば、①思いを共感し(共同化)、②共感を概念に(表出化)、③概念を理論に(連結化)、④理論をノウハウや知恵に変換していく(内面化)という、一連のプロセスがモデルとして説かれています。特に①の共同化においては、他者との共通の時間・共通の場所で過ごす体験を通じて、暗黙知が形成されていくことが重要視されています。
※SECIモデルでは、暗黙知と形式知を相互変換しあいながら、最終的に組織レベルで新たな知識を獲得していくというプロセスが示されています。

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離れ離れでの在宅環境であっても、共通の時間は合わせられますし、前述のコラボレーションツールを駆使することで、仮想的ながら共通の場所も我々は作り出すことが出来ます。そして、これまでオフィスで行ってきた他者とのあらゆる作業(ペアプロ、モブプロ、モブレビュー、朝会、ふりかえり、様々な価値を見つけるワークショップ等々)をオフィスの時と何も変えずに続けることで、チームで知識を獲得し続ける事が可能だと考えています。ここでも在宅だからといって、これまでの時間や場を短縮したり、省略したりすることは悪手です。共同作業にはチームとして大きな意味があることを改めて認識し、妥協のないチーム活動を続けていきましょう。

残る課題

いまも手元に残っている課題として、「チーム外との交流が減っている(オフィスであった偶発的なコミュニケーション機会がない)」事と「新しい同僚を迎えるときや、新たにチームを形成するときにも在宅環境で出来るのか(やれそうだが不安はある)」といったものがあります。
試行錯誤の先に知見を得ることができましたら、改めて共有したいと思います。

突然の環境変化は、組織の固定観念を見直す絶好の機会です。新しい前提に立ち、弱点の解消だけでなく理想の状態に近づくための行動を一緒に考えていきましょう。

参考文献